あらすじ公演情報役者紹介稽古場風景悶々日記|インタビュー|主宰からのコメント





このインタヴューは「SWITCH」誌の取材の際に録音した会話をもとに再構成しました。取材日は2月下旬なので、「反感の嵐」のチラシがようやくできあがって、台本作りも後半まで進んだ、という状況での会話です。なのでネタバレ部分はありません。あんまりそんなに、悪口とか陰口とかもありません。安心して読んでみて下さい。


本谷:これ、チラシなんですけど。
――この絵はあれですか、ノアの方舟なんですか?
そうです。芝居の内容がなんかこう、イッちゃった話なんで。
――色がいいですね。
あ、ほんとですか? 色は私が付けたんですよ。
――絵は誰が書いたんですか?
知り合いのイラストを描く方です。構図とかをこっちから言って描いていただいたものをパソコンで取り込んで。
――チラシ作りってかなり初動段階での作業ですよね? そうすると、最初の段階でだいぶ入念に物語の内容とか決まってるんですか?
そうですね。けっこう前からホームページにあらすじを載っけてたりするんで。でもあらすじを書いたはいいんですけど台本書いてるとどんどんそんな人出なくなってたりとかしていて……。
――あらすじに書いた人達出なくなってるんですか!?
「いないなーこんな人達」とか思いながら昨日あらすじ見てたんですけど(笑)。「こんな話かー」とか思いましたよ。ちょっと無責任なんですけど。
――面白いですね。
話が進んでいくうちにぜんぜん予想外のキャラが重要な役だったりして、「お前だったのか!」みたいな。だからプランはあってないような。書きながら考えてるような感じなので……。演劇はよく御覧になられますか?
――そんなに見てません。
そうですよねえ。芝居とか見ませんよねえ。映画のほうがいいですよね。映画のほうが安いし。今回の公演は200円値上げしたんですよ。ついに映画を上回ってしまいました。
――いいんじゃないですか。映画は1本作れば何度でも上映できるわけだし。ビデオにもなるし元は取れるんですよ。演劇は公演回数も限られるし、まあ、地方公演とかあるにはあるけど。でも小劇場とかって、どうして地方では支持する人がいないのかな。
見にくる人がおじちゃんおばゃんだからですかねえ。うちの田舎にも劇団があるんですよ。両親は戻って来てそこに入ればいいじゃないって言うんですけど、なんて言うんですか、方言丸出しの芝居。「元気やったけぇー?」みたいな芝居をやるところで。まあ親にとったら一緒なんでしょうけどね。
――地方はきっと地方に向けて限定的に何かしなきゃだめなんだろうね。東京のものをそのまま持っていっても、そっちの人にはよっぽどつまんない。
でも知らないだけっていうこともあるから。分かる子達に東京のものを見せたらそれなりに多分「わーすげぇ」ってなると思う。私が東京出て来た時がそう。初めて小劇場を見たとき、今まで「元気やったけぇー?」とかしか知らなかったんで「わー」ってなって。「東京だー」って思って(笑)。東京で作ったものをそのまま地方に持っていっても数は少ないなりにも若者達はわーってなるとは思うんですよ。
――今回の物語の話を聞かせてください。前に話した時に、『反感の嵐』は、ひとつ試みとして前作『ファイナルファンタジー』の部屋の中にいた人達を外に出してみたいっていうようなことを言ってました。その「外に出してみよう」という試みっていうのはどんなことなんですか?
要は続編なんです、私の中で。でも『ファイナルファンタジー』と『反感の嵐』の登場人物はまるっきりかぶってないです。前回は登場人物たちが密室でコチャコチャする話を書いたんですけど、その時は真剣に演劇をする姿勢を馬鹿にする態度が私は逆に格好悪いんじゃないかなと思ってたんですね。演劇を馬鹿にするにしてもちゃんと演劇をしてから馬鹿にしようと思って、1回シリアスにやったんです。そしたら「ダサい、ダサい」ってすっごい言われて。「馬鹿じゃねえか?」みたいなこといっぱい言われたんですよ。アンケートにも「こんなものは小娘の頭の中だけで作られたただの妄想極まりない」みたいなことをいっぱい書かれまして。そういうこと書いてる人の意見が私も分かるから、だったら『ファイナルファンタジー』の登場人物達がそのまま外に出ていって、社会で通用しない感じを書こうかなと思って。
――今回は現実路線でいくという。
前回は地下から地上へ出て行くところで話が終わったんですけど、今回は前回の登場人物を思わせる人達が地上に出た途端に生活感溢れる人達にバッサバサ切られてくっていうのがいいなあと思って(笑)。「あ、ダメでしたダメでした」って。要はアンケートを書いた人達の「おめえらダメだよ」みたいな切っていく立場に私もいて、「私が地下で育てていたことは全然世間では通用しませんでしたー」みたいなアンチからいこうとしたんですね。「通用しないってことはすっごい分かってるんです」っていうとこから今回は入ろうと思って。それがまたネガティブとか言われちゃうんですよね。
――作品に対する意見や反応を意識的に引き出しながら、その意見や反応を手掛かりに作品作りをしているっていうのが面白いですね。
だからわりと次回公演とか考えてませんね。終わったものの反応に対して何かするっていうやり方で今までだいたいやってきたんですよ。だからアンケートにくだらねえみたいなことを書かれると「いやいやそれ分かる分かる」みたいな。くだらないよなあ、じゃあそこの視点で次は書こうみたいなことをやってきたので。アンケートには助けられてますよ。すごくいっぱい辛辣なことを書かれるけど。「あなたが生まれてきたことが本当に恥ずかしい」とか(笑)。「この世に生まれてきたことを大人として恥じます」みたいなことを書かれたりとか。役者達に言わせてる言葉を私が考えてることだと思っちゃうみたいで。でも私はそんな言葉はどうでもよかったりとかするんだけど、私が本当にそう考えてるって思われる。前回とかは言葉だけ取ると「生きてることなんて意味ない」みたいなことを私はポジティブに語ってるつもりなんですね。でも観客はほとんどネガティブに取っちゃったみたいで。開き直っていこうよっていうあれだったんですけど。……なんか野猿のコンサートに行った帰りに女子高生が2人飛び降り自殺をしたっていうニュースがあったじゃないですか。で、その遺書に「生きてる意味がわかりません」みたいに書いて飛び降りたっていうんですね。野猿を観て「生きてる意味がわかりません」っていって飛び降りるっていう。
――野猿、ブルーですよね。
生きてる意味を野猿に求めちゃ駄目でしょうっていうのがあって。「生きてる意味とか私だってないよ?」っていうところから始まって、「でも生きていこうよ」っていうことを書いたつもりだったんですけど、ちょっと大人の人達とかはただ小娘が「え〜、でも生きてる意味とかないし〜」って言ってる感じに取っちゃったみたいで。それに対して「もっと現実を見ろ」みたいなアンケートがすごい書かれて……。だから今書いてる芝居では「生活」っていう言葉がすごいキーワードになってますね。
――「生活」っていうのは、さっきの言い方をすると、「生きる意味なんてないけど生きている」って状態のことですか。
それと、何かこう、「策を労するとよくないのよ」っていう。「無防備で生きていたい」っていうことですね。価値とか意味とか考えてることに対してすごい嫌悪があって。「だっせえー」って。これは芝居してる私に向けて言ってることでもあるんですけど。サラリーマンの人達に申し訳なくなるんですよ、芝居とかやってると。生活感ねえなーと思って。演劇はやっぱりファンタジーじゃないですか。そのダサいとこから何とか抜けらんないかなあって。まあ抜けらんないですけど(笑)。だって、おもちゃの鉄砲で人撃っても「演劇だから死んだことにしてね」みたいなのはどうしようもないですし。
――「演劇だから死んだことにしてね」っていうのが本谷さんのいうファンタジーってことなんですね。舞台の上で魔法は使わないというか。
だからなるべく魔法使いたくないんです。使う時は逆に思いっきり、空中に浮かしたりとかしたい。何の説明もなく普通に喋りながら浮いていったりとか。ファンタジーは中途半端に使うよりは思いっきり使うか使わないかのほうがいいんじゃないかな。仕方ない部分を踏まえるのは大事だけど、「見逃してよー」って当たり前のように開き直るのは嫌だなって思うし。
――観客を馬鹿にしないっていうことなんじゃないですか。たとえば、さっきのアンケートの反応にしたって「こいつら全然わかってない」とかいうふうに観客を馬鹿にすることもできるはずなんですよ。でもしないでしょ?
いや、だってそこは私の演出力のなさだと思うんですよ。ポジティブに書いたものが8割くらいの人にはネガティブに取られちゃったのは、そこは普通に私の見せ方が下手なんだなって。私がやろうとしたことが伝わって違うって言われるなら「ああ、分かんない人達なんだな」って思うかもしれないけど、まず違った意味で取られるってことは「ただ伝わってない」だけだと思うし。
――でもああいうアンケートって誰が書くんですかね。
うちアンケート回収率けっこう高いんですよ。私があまりに偏った意見だけを一方的に提示するから、なんかムカつくんでしょうね。
――的確な意見とかあります?
どうでしょう? そう言えば『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の公演で一度、ラストの重要な台詞を、全然真逆の意味で役者が喋っちゃったことがあって。おかげで私の見せたかった話の意図がまるっきり変わっちゃったんですけど、それに対してアンケートの意見ってほぼ他の回のものと内容変わんなかったですね。その時は「どええ?」って思ったけど、結局演劇ってなんか空気とかなんでしょうね。
――でもそれは言葉じゃない部分の空気や体からの何かで同じものを伝えられてたってことだと思いますよ。
あんまりセリフが大事とかって思わないんですよ。響きにはすごいこだわるけど、こだわってるのは響きだけで、その響きが良ければ別に180度違う内容の言葉を言わせても別に私はいいやっていうのがあるんで。
――「別に私はいい」っていう一票の入れ方が潔くていいですね。僕もアンケート書いて一票入れます。ってなんだかこの終わり方だと、アンケート促進キャンペーンやってるみたいですね(笑)。ってあれ? これってすでに独り言? 以上です!
(取材・文 ダイダパーカ)

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